先日、日本の大手企業のAI PoC(実証実験)に、途中からコンサルとして参加してほしいという依頼をいただきました。
小さいプロジェクトにAIを導入したもののチームが期待した成果が出ておらず、状況を見たうえ改善に貢献してほしい、という依頼でした。
プロンプト、データ構造、AIのアーキテクチャ。最初はこれくらいの範囲を確認する程度だと思っていました。確認後、改善できる点はたくさん見つかりました。
でも、実際の業務の流れを理解していくうちに、別の結論に辿り着きました。
この問題は、AIを改善しても解決しない。
業務の実態
業務の内容はこうです。顧客のための大型開発プロジェクトの開発工数を見積もる際、概算見積もりから詳細見積もり、根拠資料、過去のプロジェクトデータ、そして大量の情報を照らし合わせながら資料を作成します。全て手作業で作成するため、当然、ドキュメント間での数字などの不整合が起きます。
見積もりを顧客に提出後、「この項目において、このドキュメントではAなのに別のドキュメントではBなのはなぜですか?」という問い合わせがよく返ってきますが、回答するには担当者が関連情報を調べ、何が起きたか把握し、回答を組み立てる必要があります。
現状ではかなり手間がかかるため、この見積もりに関するすべての情報をAIに渡して、問い合わせに答えさせればいい。
この考えのもと、この部分のオペレーションはAIが使えるプロジェクトとしては簡単なものだと判断され、私が参加する前から、このアプローチで検証が進んでいました。
頭から離れなかった疑問
でも私には、ある疑問が頭から離れませんでした。
そもそも不整合が生まれないようにすれば良いのでは?
私だったら一番最初にこう考えていたと思います。「最初からAIが使える前提で、この業務全体を設計し直すとしたら、まずどうお客様のニーズを把握し、どう正確な見積もりを作り、すべての資料に一貫性を保ち、問い合わせに正しく答える仕組みを作るか?」
段階的改善という罠
この会社にはすでに長期のAI変革計画があります。数百人が関わっており、なんと90ページにわたるパワポ資料が用意されていました。資料では、既存業務が細かいパーツに分解されており、それぞれの生産性改善率が試算されています。分解したパーツのうちのここで20%削減、あそこで30%自動化、足して全体の削減効果を積み上げる。一見、「小さく始めて大きい影響を与える」合理的なアプローチです。
ただ、この計画の前提が、「今の業務モデルが、これからも変わらず続く」となっていたことに私は疑問を持たずにはいられませんでした。
段階的な改善が間違いだとは思いません。小規模の改善の積み上げが間違いだとも思いません。大企業には、レガシーシステム、複雑な契約書、大量の過去資料、セキュリティ要件、そして数百人や数千人もの既存チームとお客様がいます。これらをすべてガラッと変えることが大変難しいのは理解できます。
ただ、考える順番は改善できるのではないでしょうか。まずゴールから考える。「AIで全体プロセスの30%工数削減を目指す」ではなく、「今日からAIを使える前提でゼロから設計するとしたら、このプロセスはどうあるべきか」という問いを最初に置くことで、既存のやり方にとらわれないやり方ができるのではないかと考えます。
今回私はいただいたスコープのAIのパフォーマンス改善はしっかり進めましたし、スコープ内での改善もできました。ただ、できればゴールから逆算したオペレーション改善をしたかった、と感じました。AIにはそれが実現できると、確信しているからです。
これはAIの問題ではない
最近は日本企業の案件に触れることが多く、こういった事象は企業文化の影響が大きいから起こるのではと感じることが多くなりました。
15年以上前から、日本の大企業がどうやってオペレーションをデジタル化(DX)してきたか、そしてどう失敗してきたかを見てきましたが、やろうとしていたことは今とよく似ています。業務全体を細かいパーツに分解して、一つひとつをRPAで自動化していく。その結果できあがったのは、「効率化されたパーツ」が積み重なった巨大なオペレーションで、使う人の体験はほとんど考慮されていませんでした。
私はいつも、小さな手作業をRPAに置き換えるよりも先に、全体のゴールを描くことが必要ではないかと言い続ける役割でした。ただ、その声が届くことはほとんどありませんでした。
そして今、AIで同じことが起きているのを見て、デジャブを感じています。
これはAIの問題というより、プロセス設計の問題です。そしてそれは、企業文化と強く結びついていると思います。
うまくいっている例も見ています
もちろん、素晴らしい変化を遂げた会社も見てきました。特に規模の小さい会社では、驚くような変わり方をした例がいくつもあります。次回は、そうした成功事例について書こうと思います。
皆さんが関わっている会社では、AIの導入はうまく進んでいますか。ご自身の経験を共有してもいいという方がいたら、ぜひご連絡ください。
