数か月前、ある大企業のプロジェクトで、既存の開発プロセスの中で生成AIをどう使うかを社内文書化するお仕事に関わりました。
プロジェクト管理の観点では、順調に見えました。
多くの関係者が参加し、構造化されたレビューがおこなわれ、過剰なまでに丁寧なすり合わせが行われ、文章化は着実に進んでいました。
しかし実際には、何かがずれていました。「AIでどう働き方を良くするか」ではなく、「今の働き方にAIをどう組み込むか」について書いた文章は、ただ単に現場の重荷でしかなく、読みたい、参考にしてAIを取り入れたい、と思わせるものではありませんでした。
大企業でAI導入が「遅い」と感じられる本当の理由
社員がAIを理解していないから、技術がまだ成熟していないから、と考える人は多いのですが、私が見てきた現実は違います。
大きな組織は、リスク回避、合意形成、説明責任のために最適化されています。一方のAIは、実験、反復、素早いフィードバックの中でこそ力を発揮します。仕組みを変えずにこの2つを組み合わせようとすれば、摩擦が生じるのは当然です。
レビューの目的は品質ではない
私が関わったプロジェクトでは、小さな更新でも何段階ものレビューを通す必要がありました。最初はここまで質にこだわるなんて、さすが大手だな、と思っていましたが、やがて理解しました。目的は品質だけではなく、「責任の分担」だったのです。レビューする人が増えるほど、一人ひとりの責任は薄まり、意思決定は「安全」になります。品質の担保のため、というよりは、何かあった時に責任者が見えない仕組みのように感じました。
そしてその代償はもちろん、進捗の遅れ、当事者意識の希薄化、そして承認後の変更への強い抵抗でした。
一度承認されたものは「固定」される
何度ものレビューを経て、ある文書が承認・公開されました。公開後、小さくも大事な改善点があることに気づいた私は変更を提案しました。1文の変更で済むだけの改善案でしたが、返ってきた答えは「これはすでに十分にレビューされ、承認済みです」でした。
この仕組みは、継続的な改善よりも安定を優先している。
AIが本当に埋もれていく場所
こうした構造にAIを導入すると、AIはプロセスの新たな一工程、新たな文書化の対象、新たなレビュー対象になりがちです。意思決定の方法も、プロセスの構造も変わりません。それらを変えるためにAIを使う、という発想も出てきません。AIが「事務作業」になってしまうのです。
中小企業のリーダーにとっての意味
このようなレガシーに基づく大企業のジレンマがある中、AI時代はまさしく中小企業の皆さんの活躍の時代だと思っています。5段階の承認プロセスも、硬直したプロセスの縛りも、自らを守ろうとするレガシーシステムもない。変化が起きやすい中小企業の方が、変更重ねて改善をしていくスピード感のあるAI導入に適しているのです。
1. 完璧ではなく、学びに最適化する
では、何から始めたらいいのか。「完璧なAIワークフローを設計しよう」ではなく、「今週、何を試せるか」から始めるのが一番と考えます。小さな実験は、完璧な計画に勝ります。
2. 責任の所在を明確に保つ
みんなのものは、実は誰のものでもありません。AI導入では、責任者を一人決め、実験の裁量を与え、どれだけ試したか、どれだけ試したことから学んだか、で成果に繋げるのが最適と考えます。
3. アウトプットは「仮のもの」として扱う
何であれAIが出してきたものをそのまま「最終版」にしないこと。改善できるならその場で更新する。正式な改訂サイクルを待たない。AIは、レビューをする人のスキルがあってこそ、その力を発揮できるのです。
4. 壊れたプロセスにAIを足さない
AIを導入する前に、「そもそもこのプロセスは合理的か」と問いましょう。合理的でないなら、まず簡素化し、その上にAIを載せるのです。
まとめ
大企業でAIがうまくいかないのは、技術がないからではありません。AIを取り巻く仕組みが、スピードと適応のために設計されていないからです。中小企業のリーダーである皆さんは、その仕組みに縛られていません。それは皆さんの武器です。ぜひ活かしていただきたいです。
議論から実行へ。それこそが、私がGetItDoneWith.AIで力を注いでいることです。AIの時代には、完璧な体制よりも行動がものを言います。一緒に、一歩目を踏み出しませんか。

